■第026号■新ジャガ・芥川龍之介「芋粥」・コロッケ

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□■□■ 居酒屋おやじの知ったかぶり。料理と酒とウンチクと ■□■□
■□■ 第026号 ■□■
      【新ジャガ・芥川龍之介「芋粥」・コロッケ】
      
              2006/5/15 (月)
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『おやじ、今日のおすすめは 何だ 』
へい、キリンかエビスのビールなんざぁ いかがでしょうか。
『くだらないこと言ってないでポテトサラダでも出しとくれ。
それとな、あとで、コロッケ食うから、とり置きしておいてくれ。
すぐ売れきれちまうんだから。』
へい、畏まりました。(芋ばっかりじゃ。)
くやしいじゃぁございませんか。アタシのとこの売りは
朝漁れの天然魚介。それと季節の料理。
いえいえ、お客様が何を召し上がろうと、一向に構いません。
喜んでお出しします。ありがとうございます。
ポテサラでもコロッケでも、じゃが唐揚げでも肉じゃがでも
お好きなものお召し上がりください。
そのような事ではないのです。
くやしいと、言うのはですね、、、、、
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今日の品書き(目次)
【1】新じゃが
【2】コロッケ
【3】deletion
【4】酔中歌(あとがき)
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【1】新じゃが
農家の知人から新ジャガを送っていただきました。
関東近郊では新ジャガの時節です。(*1)
『まあ、あんた、きれいな肌をしてるんだねえ。まるで、
うでたての新ジャガみたいだよ。ちっいと触らせておくれ』
これは秋山 篤蔵 氏がモデルの
杉森久英・著『天皇の料理番』から。
主人公、篤蔵の肌の色つやがいいので、年かさの女が言う
せりふです。
「新ジャガみたいな肌」は ほめ言葉なんですな。
ふつうは、「いも」が付くとあまり良い 喩えはありません。
「いもねえちゃん」「いも侍」「芋を洗うような混雑」、等々。
でも、これらのたとえに出てくる「いも」は
里芋でしょう。
近頃は、イモといえばじゃが芋を連想される方が多いように
思います。イモ焼酎の原材料はじゃが芋と思い込んでいた
若い方いましたから。サツマ芋ですからね。
いもねえちゃん は じゃが芋みたいな娘さんの
ことではありませんよ。
ファストフードの店でのイモはじゃが芋でありましょうが、
私の世代ではイモはサツマ芋か里芋です。
山形の芋煮会は里芋ですし、イモの天ぷらは、
やはり さつま芋でしょう。
ジャガイモの原産地は南米で日本には16世紀に
ジャワからオランダ人が持ち込んだという事になっています。
サツマイモの伝来は諸説あるのですが、17世紀初頭に
中国福建省から琉球を経て鹿児島へ、が定説。
これも原産地は南米。
里芋は、原産地は熱帯アジア。日本へは、縄文時代とも、
奈良時代とも言われています。
里芋とは山に自生する山芋(自然薯)に対して
「里」で栽培されたイモの意。
自然薯は日本原産の山芋。
芥川龍之介の「芋粥」のイモは山芋でしょう。
「芋粥とは山の芋を中に切込んで、
それを甘葛(あまづら)の汁で煮た、粥の事を云ふのである。」
とありますから。
この物語の原典は「今昔物語集」ですから 平安時代では
山芋はご馳走であったのでしょう。
主人公、「五位」の激しい芋粥への欲望は悲しい結末で
かなえられるというお話でしたが。
芥川は小説の中でこう書いています。
「——人間は、時として、充されるか充されないか、
わからない欲望の為に、一生を捧げてしまふ。
その愚を哂(わら)ふ者は、畢竟(ひつきやう)、
人生に対する路傍の人に過ぎない」
          芥川龍之介の「芋粥」(大正五年)
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■新じゃがを語るつもりが、他の芋の話になってしまいました。
今の季節の話題としては芋はふさわしくはありません。
里芋でもさつま芋でもじゃが芋だって季語としては秋です。
いまやイモは世界中に分布しておりまして、その伝播を探るのも
面白いのではありますが、厄介な作業になりそう。秋まで
温めておきましょうこの課題。
英語で
drop 〜 like a hot potate とは
「〜をあわてて棄てる」とか「関係を絶つ」の意ですって。
a hot potate は「厄介な問題」
茹でたての熱々のじゃが芋を、手の上で跳ねて
熱から守る事から転じて「誰も処理したがらない問題」、
牽いては「たらいまわし」みたいなこともいうらしい。
■(*1)新ジャガの季節などと申しましたが、
実際は春先から秋までいろいろな産地のものが出回っています。
「2度イモ」、「3度イモ」などといいましてジャガイモは
年に2,3度の収穫もできます。
新ジャガの一定の定義はないようですが、一般的には、
やや未熟で、みずみずしくて、皮(周皮)がしっかりとは
付いていない とれたての状態のものを言うのでしょう。
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【2】コロッケ
■20年ほど前になりますか。メニューに芋コロッケを加えました。
ポテトサラダは、既にやっておりまして、カミさんの担当でした。
仕込みにジャガ芋を蒸してマッシュするのは一緒ですから、
コロッケもやろうという事になりました。
それが、お客様に受け入れていただいて、今日まで続けている
次第であります。ちょいと大き目なだけで、何の変哲もない
コロッケなのですが。
で、ジャガ芋を蒸してマッシュしたり、中に混ぜる
ベシャメルソースを作ったりと 仕込のすべてを、
カミさんがやっているのです。 コレガ、年間通して、売れ筋。
ほかにもさつま揚げとか、今日は言いませんがいくつか、
あるのです。あのヒトが作っているもの。だいたいが売れ筋。
僻んではいませんよ、わたしは。
ちょっと悔しいと思うときもあるケド。
■ところで、コロッケの名ですが、フランス語の
croquette(クロケット)に由来するというのが定説のようです。
Croquettes de pommes de terre(クロケット・ドゥ・テール)
とかPommes de terre en Croquetteあたりが正式名かな。
http://www.saveursdumonde.net/ency_3/patate/croquete.htm
オランダでは自販機で数種類のコロッケが売られて、
若い人たちに人気があるようです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Image:Febo.jpg
オランダ名物のクロケット(kroket)が日本のコロッケの
語源だとする説もありますが、年代として無理があるらしい。
フランスからオランダにクロケットが伝わったのが1909年と
されています。
日本のコロッケに関する記述をしらべて見ました。
1872年(明治5年)に出版の、
敬堂学主人・著「西洋料理指南」には
「ジャガイモを用いて、俗にいうがんもどきのようなものを作る
方法があるーー略ーーパン粉を着せて第三の衣をつけてから、
牛脂(ラード)を使って揚げる」という記述がありますが、
コロッケの名は出てきません。
1895年(明治28年)の女性誌「女鑑」には、フランスコロッケと
いう名でクリームコロッケの作り方があるのですが、じゃが芋は
つかっていないようです。
1903年(明治36年)、村井弦斎の小説形式の料理書、
「食道楽」の中に「挽肉と芋のコロッケー」の作り方があります。
「第百十一 挽肉と芋のコロッケー
は前の通りにして煮た原料へジャガ芋を裏漉しにして芋三分
肉七分の割りで混ぜて藍味をつけて捏ねて前の通りにコロッケー
に揚げます。玉子は要りません。」
以上がレシピの全文です。「前の通り」というのは「第百十」に
「挽肉のコロッケー」が載っているのです。
どうも日本の方ががオランダのコロッケより先のようですね。
■実は、新ジャガはポテトサラダやコロッケなどに使う
マッシュ・ポテトにはあまり向いていないんです。
固形分が低く細胞膜が弱いためホクホク感に欠けるのです。
水分が多くみずみずしいので、丸ごと食べる煮物などのほうが
よろしいでしょう。皮ごと調理してください。
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【3】deletion
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【4】酔中歌(あとがき)■♪Sketches Of Spain (Miles Davis)
■カウチポテト(couch potato)という語がありましょう。
 TVを見ながら椅子に座ったり寝そべってダラダラと
 時間を過ごす人のこと。
 これがTVではなく、PCになると
マウスポテト(mouse potato)って言うんだってね。
◆Mouse potato◆
A couch potato is a person who spends all his or her leisure time sitting on the couch and watching television.
A mouse potato is a person who spends all his or her leisure sitting in front of the computer, surfing the Net.
“Mouse” here means a computer mouse. (週刊ST ONLINEより)
■一昨年行ったポルトガルでは、
 バカリャウ(bacalhau)という干し鱈を戻したものが入った
 コロッケ(croquete)を食いました。
 何年も前のスペイン旅行で食べた、
 魚介のコロッケ(Croquetas Marineras )には、海老や白身の
 魚が入っていましたっけ。
 こんど行けるのはいつかな。
 コロッケいっぱい食べていただいて旅費稼がにゃ。
 
■では、また。
 おちかいうちに。ありがとうございました。

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