■第017号■ アンコウ・続編

 冷蔵庫からアレをだしてくれ。アレだ。ナニだよ。早くしてくれ。

 調理場でのいつものこと。また始まったかと、若い者は思っているのだろうが 仕方が無い。物の名前が出てこない。

 歳はとりたくないねえ。もともと出来のよくないところに、連夜の酒で脳みそがかなり いかれちまっている。

 歯がゆいやら情けないやらで 近くの者に 八つ当たり。連中も「アレ」と言えばわかっている筈だが とぼけていやがる。ささやかな抵抗てぇやつか。

 で、今日は何でしたっけ。。。そうでした、アレのナニでした。ナニの話のつづきでしたね。

 アンコウの続編をお届けします。

⇒アンコウの前編はこちら



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◆きょうの品書き(目次)◆

【1】アンコウ料理の品書き

【2】雑炊とおじや

【3】女房詞(にょうぼうことば)

【4】酔中歌(あとがき)

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【1】アンコウのおすすめ料理

 前回は、アンコウの刺身を食べていただいたところで終わりました。今日は、そのほかのアンコウ料理をご紹介いたしましょう。

【煮凍り】  にこごり。アンコウを煮て出てきたゼラチンを利用して、

      冷まし固めます。ひと口大に切ってお出しします。

【共合え】  身とあん肝をあえます。

【酢の物】  身と皮、それに胃袋を酢味噌で。

【あん肝】  血抜きして晒した肝を蒸して冷ましたもの。ポン酢醤油で。

【あん肝豆腐】あん肝を裏ごしして、玉子と出しを混ぜ蒸し固めます。

【唐揚げ】  酒、醤油で下味をつけて揚げます。下味なしで美味出しや加減酢で召し上がっていただくことも。

【てんぷら】 淡白な身ですから、あっさりとした食感のてんぷらに仕上がります。

【煮物】   蕪や壬生菜など季節の野菜との炊き合わせです。

【寄せ物】  あん肝を含めた7つ道具すべてを細かく切って蒸しあげます。ネギ味噌を掛けたり、添えたり。

【焼き物・1】 塩焼きや照り焼きに炙ったあん肝を添えたり、挟んだり。

【焼き物・2】 ムニエルにしたり、ソテーしたりします。これにもあん肝を添えます。好評です。

【焼き物・1】 大根とアンコウの鉄板焼き。

      人気メニューです。薄味を含ませて炊いた大根を油焼きします。アンコウの身と肝をソテーします。これにソースを流しいれ、つめます。主役は大根かアンコウか。

【鮟鱇鍋】   前回ごお話いたしましたアンコウの7つ道具すべて、召し上がっていただけます。アンコウ自体の美味しさをお楽しみいただきたいので、手前どもの鍋地(なべじ)は薄味です。それでも充分、コクも旨みもある鍋になります。ご希望ございましたら味噌仕立てもいたします。

 ■味噌仕立てといえば 北茨城・平潟の郷土料理「どぶ汁」が有名ですね。本来のどぶ汁は水を使わず、肝を炒ったところへアンコウと野菜を入れ、これらから出てくる水分で汁に仕立てていくものです。

 今ではこのような作り方で供する店は少なくなりました。「どぶ汁」という名は残っていますが、実際は出汁を加えて、濃厚なあんこう鍋に仕立てるのでしょう。「どぶ汁風」ですね。

 ■どぶ汁風 の作り方 (一例)

 

 ・アンコウの骨と野菜の切り残しに水を加えて昆布をいれ煮る。これを漉して出汁とします。

 ・その出汁に、あん肝、白味噌と田舎味噌、おろしニンニク少し、豆板醤、酒粕、ミリンを加えて濃い目の汁をつくる。

 ・その汁を鍋に入れ、適当な大きさに切って霜ふりしたアンコウをいれ煮ます。焦げやすいので、出しを適宜足しながら、煮えたそばから召し上がってください。

 ■上の「 どぶ汁風 」を銘銘の器に入れて蒸し上げれば、焦げ付きの心配も無く、料理らしくなります。コースの中の一品にも。同業の皆様お試しあれ。蒸し上がり際にセリなどを入れたらいかがでしょう。

 ■北大路魯山人(1883-1959)が あんこう鍋について記した文があったはずだと、先日来 探しておりました。ヤット見つかりました。

 魯山人は機関紙といいますか会報といいましょうか、小冊子を次々発行していました。『星丘』『雅美生活』『陶心雅報』などです。

そのうちのひとつ『独歩』第2号(昭和27年9月刊行)に、「鮟鱇一夕話」と題して、次の一文があります。

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   『鮟鱇という魚は、鍋料理にすると、すてきにうまい魚である。

   脂肪、ゼラチンに富んでいて、なかなかしゃれた食物である。

   ざらにある魚でありながら、鍋料理中もっとも乙なものとされ、

   高級層にも下級層にも賞味されている。しかも、それが骨以外

   捨てどころの無いという魚で、肉を除いてはことごとく

   うまいところだらけである。この点、珍しく雅俗混合の趣味を

   有し、味にも、見た目にも、ユーモアたっぷりで、親しめること、

   おびただしい。』

 

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【2】雑炊とおじや

 ■鍋の締めは雑炊(ぞうすい)ですね。これを食いたいがために鍋料理をはじめるという人もいますから。

 「雑炊」は当て字で、古くは「増水」ですって。もともとは穀物の粉を水でかき混ぜ煮立てた熱い吸い物でした。粥(かゆ)にすることで水分を増すことで 増水 なのでしょう。

 「雑炊」ではなく「おじや」がいいとおっしゃる方もおいでですが、どのように違うのでしょうか。

 板前に「雑炊」と「おじや」の違いを尋ねてみてください。こんな答えが帰ってくることが多いのでは。

  「雑炊」は ご飯を洗ってサラサラにしてから使う。

  「おじや」は 洗わずにそのまま入れる。粘り気を重視。

 以前は私もそのようにご説明していましたが。。。「おじや」を辞書で引いてみますと、「雑炊の女房詞(にょうぼうことば)」と出ています。(広辞苑、第2版)ありゃま。同じことだったのか。あの違いは俗説だったんでしょうか。

 「じや」は煮える音の擬態語(onomatopoeia)だって。じやじやと時間をかけて煮るから「おじや」なんだって。 女房詞ではありますが江戸時代には既に男だって「おじや」という言葉を使っていたようです。


【3】女房詞

 女房詞(にょうぼうことば)について、おさらいしておきましょうか。

 室町時代から宮中の女官たちが使っていた、一種の隠語が始まりですね。多くは衣食に関することです。やがて将軍家に仕える女性たちに広がり、のちに下々にまで普及しました。

 女房詞が一般語になり現代でも使われている語もあります。

・「お」を冠する言葉で「おひや(水のこと)」とか「おでん(田楽)」など。

・いわゆる「文字ことば」では「杓文字(しゃもじ)」や「御目文字(おめもじ)」があります。

・「ひもじい」ということばも言葉もそうです。空腹であることを「ひだるい」と言っていたようです。これを「文字ことば」にして「ひ文字」、形容詞では「ひもじい」となるわけです。

 そろそろ、ひだるくなってまいりましたか。 あれほどアンコウ料理めしあがったのに。ではもう少しだけお付き合いいただいて看板といたしましょうか。

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【4】酔中歌(あとがき)

■♪Straight No Chaser (1951 Thelonious Monk)

■ 『酒を水で割るほど貧乏しちゃいねぇやい』

なんて たわ言いっていたんだけどねぇ。それが近頃は、ストレートではきつく感じるようになってまいりました。もともと、ウィスキーはストレートかオンザロックスが好み。よる年波てぇヤツでしょうか。いかれちまってるのは脳みそばかりではないようです。

Thelonious Monk Straight No Chaser■鬼才モンクの最高傑作のひとつに数えられるブルース。写真は『Thelonious Monk Straight No Chaser』と題するDVD。モンクの人生とジャズを淡々と綴るドキュメンタリー。製作総指揮はクリント・イーストウッド。イーストウッドは他にもジャズに関したDVDがあります。彼自身がジャズ・ピアニストだった経歴もあり、息子カイル・イーストウッドもジャズミュージシャンです。


■鮟鱇鍋はご家庭ではちょっと無理、とおっしゃる方に、次回は居酒屋おやじ がおすすめするご家庭向きの鍋料理をご披露しましょう。⇒http://www.tate-mono.com/cat0004/1000000118.html

■魯山人に興味を持ったきっかけは、白崎秀雄(1920-1992年)の『北大路魯山人』がきっかけだったでしょうか。もう20数年前のことになります。以来、魯山人にかかわる本を沢山読んできました。作品にも何度か目にすることが出来ました。最近では2007年に出ました山田 和・著『知られざる魯山人』。力作です。

今日もありがとうございました。

飲みすぎませぬよう。。。。。  

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