■第015号■ 秋味と鮭児、サケとシャケ

いらっしゃいませ。

今日は「秋味」をご用意しておりますので、後ほど召し上がって
いただきましょうか。

 今すぐ出せって、仰られても。。。「秋味」と申しましてもビールの銘柄じゃありません。サケ(鮭)です。

ところでお客さん、

 「サケ」と「シャケ」、どう違うんでしょうか。

 

 『サボテンとシャボテンのちがいみたいなものだろ』   

 

 「サボテン」と「シャボテン」はどう違うんですか。

 『だから、サケとシャケの違いみたいなものなんだよ』



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◆きょうの品書き(目次)◆

【1】秋味と鮭児

【2】サケとシャケ

【3】サケとマス

【4】酔中歌(あとがき)

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【1】秋味と鮭児

 秋になると海に出ていたサケは産卵のために川へ戻ってまいります。川に戻る前に沿岸で獲れたサケをアキアジ(秋味)と呼んで珍重されます。

 アキアジというのはアイヌ語のアキアチップという語から転じたそうで、秋の魚という意味ですって。

 秋鮭の中でもケイジ(鮭児)は絶品の誉れ高きサケとして知られております。

鮭児あります

近頃は何かと「幻の」がつきますが、ケイジ(鮭児)はまさに幻のサケ。獲れるのは数千尾に1尾とか一万尾に1、2尾とかいわれております。

 その味は、柔らかくなめらかで全身がトロ状態であると、よく表現されます。大きくて脂が乗っているのではなく、小ぶりながら脂が行きわたっているということです。

 「水産庁さけます資源管理センター」の調査によれば、脂肪の比率は20〜30% 。(通常のサケは2〜15%)

 大きさは2kg前後。(通常の秋鮭は3〜6kg)。卵巣、精巣の生殖器が未成熟でオスメスの区別がつきにくい、2〜3年魚。

 4年かけて日本の川へ産卵の目的で戻ってくるサケに比して、ケイジの目的は不明。前出、「水産庁さけます資源管理センター」によるケイジの遺伝子データ解析では、アムール川(黒竜江)系の可能性が、きわめて高いということです。

 日本系サケは北太平洋を経てベーリング海やアラスカ湾を回遊しますがアムール川系は日本近海やカムチャツカ半島を回遊するのだそうです。

 アムール川はモンゴルを源流とし、中流部は中国とロシアとの国境。そしてオホーツク海にそそぐ、全長4350kmの川。

 近年は中国側の経済発展で河川の汚染が深刻になってきたようで、ケイジにも影響なかろうかと、危惧しておる、居酒屋おやじです。

 ジツは、まだ味わって食したことないのです。酔っ払ったあとで、連れて行かれた札幌のすし屋。そこで握りのなかの一巻がケイジだった。

イヤーうまかったのなんのって、ぜんぜん覚えておりません。

 

■うまい鮭の中ではトキシラズ(時不知鮭、時鮭)、というのもありますね。春の終わりから夏にかけて獲れるヤツ。秋ではなく時期はずれに取れるから「時知らず」。

 これもアキアジ(秋味)と同じ、シロザケ。

 岩手、三陸海岸を経て 太平洋沿いに北上、北海道沿岸に5、6月ごろ到達。釧路から根室沿岸を通過する際に定置網などで捕獲される。

 この時期のは北上途中の若いサケで、産卵期ではなく策餌期にあたり白子や筋子が無い。脂が乗っていてうまい。と、こうなるわけです。

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【2】サケとシャケ

 正式和名はサケが正しいのだそうです(サケ目サケ科サケ属)。でもシャケと言うことのほうが多いような気がします。 サケもシャケも全国的に使われており、地域を限定できないようです。

 それで、識者に伺ってみました。シキシャと申しましても、ウチのお客ですから皆さんご酩酊で、責任は持てませんが。

 ■「サケがなまったのがシャケ。」酒だってそのうち訛ってシャケというようになる筈、だそうな。 

 ■「生きて泳いでいるのがサケ、加工されたら、シャケ。」つまり、新巻や切り身、缶詰やおにぎりの中身はシャケだそうです。

 ■「素面(しらふ)のときはサケ。酔ってきたらシャケ。おシャケもう一本つけてちょうらい。」勘違いなさってるようで。

 やはり、当てにはなりませぬ。本当はサケの江戸っ子訛り、と言うような単純なことかもしれません。

 ■ご存知かもしれませんが、こんな説もあります。またもや、アイヌ語に登場願うわけです。

 サケの語源として広辞苑(私のは第2版、古いね。)には、アイヌ語のサクイベ(夏の食べ物)とサットカム(乾魚)が挙げられています。

 広辞苑の編纂者・新村出(しんむらいづる・1876?1967)は、『東方言語史叢考』(1927年)でサケの語源のアイヌ語説を述べていますが、要約すると次のようになります。

 1.サクイベ(夏の食べ物)→シャケンベ→サケ

 2.サトカム(乾 魚)→サッカ→サカ→サケ

 そして、1.が適するとしています。

 さらに、アイヌ語学で有名な言語学者、金田一京助(1882?1971)は『国語科学講座IV国語学』(1933年)の中で次のように記しています。

 ●sak-ipe(サキペ・シャキペ)→サケンベ、シャケンベ→サケ、シャケ 

 

 金田一はこれはマス(鱒)を意味する言葉だとしています。サケとマスについてはあとでお話します。

 アイヌ語では「s」と「sh」の区別が無くて、、「サ」も「シャ」もいっしょなんだって。だからどちらにも聞こえるってことですね。

 これは、サケかシャケかについての論争(だれもしてないか)に終止符を打つような見事に決まる説ではありませぬか。

 

 で、居酒屋おやじの結論は、

「サケもシャケも語源はアイヌ語、サケでもシャケでも同じこと」

 

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【3】サケとマス

 漢字の日本だけで通じる訓読みを国訓と言いまして、「鮭」を「サケ」と読むのはその国訓だそうです。本来は「フグ」と読むのだそうですが、室町時代にはすでに「サケ」と呼ばれていたようです。

 奈良時代の『常陸国風土記』(710年)には鮭の本字である,魚偏に生「魚生」(シC←一文字)が、さらに『出雲国風土記』(733年)には「鮭」とともに、「麻須」(マス)が出てきます。

 鱒(マス)は、国字で、天子様にささげる「尊い魚」という意味なのだそうです。聖武天皇のころ(天平15年)にマスを献上した記録があるそうで、皇室の式礼に関係深かったようです。

 そのサケとマスですが生物学上においては違いが無いのですって。 かつては、サケはシロザケで マスはサクラマスに代表されておりました。

 明治以降、さまざまな種類のサケ科の魚が海外からも入るようになり、名称が混乱してきたようです。

 英語名を訳すときsalmon(サーモン)をサケとし、

         trout (トラウト)をマスとしました。

 本来はの意味はsalmon(サーモン)とは一生のある時期、海に出るもの(降海)で

        trout (トラウト)は一生、淡水で生活するものです。

 しかし、日本語でも英語でもサケ・マスの区別の曖昧さは残っております。たとえば、上の定義でいえば降海性であるサクラマス(和名)はサーモン(=サケ)でしょう。英名はcherry salmon ですもの。

 現に和名マスノスケ(鱒之介)はキングサーモンという名のほうで流通していますでしょ。 

 では、一見矛盾した名前のシートラウト(sea trout),そして サーモントラウト(salmon trout)ってお分かりですか。

 sea trout は降海したブラウンマス。salmon trout は海面養殖のニジマスのことです。

 こんにち、サケとかマスなどと区別する必要は無いのかもしれません。マスマスの混乱は サケられられない 事となりマスので。

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【4】酔中歌(編集後記)

♪ Autumn In New York   1934年(w&m) Vernon Duke

■作詞作曲のヴァーノン・デューク(Vernon Duke)は元ロシア人。ロシア革命でイスタンブールに避難し、のち1921年に渡米。ガーシュウィン兄弟に見いだされて活躍しました。アイラ・ガーシュウィンの歌詞による「I Can't Get Started(邦題:言い出しかねて)」もあります。

↓↓↓Billie Holidayの Autumn in New York↓↓↓

■ニューヨークのすし屋ではサーモン スキンロールというのがはやっているんだって。鮭の皮を焼いたのり巻きなんだってね。

■近頃は「マスノスケ」っていいませんね。いい響きなんですけれど。鮮魚売場などでは大概「キングサーモン」ってかいてあります。


マスノスケ Oncorhynchus tshawytscha (鱒の介、英名:Chinook salmon(チヌークサーモン))は、サケ目サケ科に属する魚。他に、キングサーモン(King salmon) の名で知られる。提供: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

■マスよりサーモンのほうが印象がいいのでしょうか。それならいっそのこと『王鮭』とか『鮭王』の名で売り出したらいかがでしょう。

 洋食屋さんが「キングサーモンのポワレ」なら、こちらは「王鮭の蒸焼」。やはり「鱒之介の蒸焼」のほうがいいかな。

■どうもありがとうございました。

 あたしは、これからマスザケ(枡酒)でいっぱい。

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