■030号■さより お姉さまに似てる

お久しぶり。やっと あえましたね。
で、きょうは 「あえもの

出会いの細魚(サヨリ)に独活(ウド)と蕨(ワラビ)を黄身酢で和えてみました。
召し上がってください。


■きょうの品書き(目次)■
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【1】今昔物語の和えもの

 和食には「和えもの」 が数多くあります。「和えもの」は魚介類や野菜などの具材を和え衣(あえごろも)で混ぜ合わせた料理です。
サヨリ黄身酢和え
白和え、胡麻和え、芥子和え、酢味噌和え、ウニ和え、木の芽和え 等々、いろいろな風味の和え衣があります。

「和えもの」はかなり古くからある料理でして、平安時代中期の辞書『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』には記述があるそうです。
「和える」はかつては「韲へる」と書いたようです。平安時代末期の今昔物語集(こんじゃくものがたりしゅう)には「」の文字がみられます。
其ノ突懸(ツキカケ)タル物ヲ、鮨鮎(スシアユ)ニコソ韲(アヘ)タリケレ

今昔物語集の「和え物」は穢ねぇ〜話なのですが。
え。その話のほうが面白そうだから、そっちをやれ と おっしゃるんですか。知りませんよ。ご気分を害しちゃいけませんよ。

例のごとく「今ハ昔、」で始まるんですがね、久しぶりにやりますか、居酒屋おやじ流現代語訳。

————-【人見酔酒販婦所行語】———–
(ひと さけにゑひし ひさきめ の しょぎやう を みたること)
今昔物語集 巻第三十一 本朝付雑事 人見酔酒販婦所行語 第三十二)

今は昔、
京に住む男が、知り合いの家を訪れた。馬から下りて門へ入ろうとすると、もうひとつ、閉まった古い門があり、その門の下で、物売りの女が売り物を入れた桶を置いてうずくまっていた。

「なぜ蹲っているのか」と思い、近寄ってみると、女は酔っ払っているのだった。男はそのまま見過ごした。
その家での用件を済ませて、再び馬に乗ろうとしたら、物売りの女は驚いて目をさまし、売り物の鮨鮎(すしあゆ)が入った桶の中にゲロを吐いちまった。

「きたねぇ」と思ったが、そのまま見ていると、女は
「其ノ突懸(ツキカケ)タル物ヲ、鮨鮎(スシアユ)ニコソ韲(アヘ)タリケレ」
ね、「韲(アヘ)タリ」でてきましたでしょ。

つまりですね、女は鮨鮎を 自分のゲロで「和えて」しまったんです。
男はそれを見て 汚いなんてもんじゃないと、肝っ玉ぶっ飛んじまって、急いで馬に跨り、その場を逃げちまった、と。

考えてみれば
鮨鮎はもともとゲロによく似ているものだから、区別がつかない。あの女は鮨鮎をそのまま売っちまったんだろう。買った人は食っちまっただろう。

このありさまを見ていた人は、その後、売られている鮨鮎を食わなくなったばかりか、自分の家で作る鮨でさえ食えなくなった。
そればかりではなく、知人すべてに「鮨鮎は食べるな」と制して廻った。また、食いもの屋へ行っても、鮨鮎を見ると、狂ったかのように唾を吐いて逃げてしまうのだった。

ことほど左様に、巷で売られているものや物売りのものはきわめて穢いものなのだ。
だから、少しでも金があるのなら、目の前で調理をさせて食事をすべきなのだ、と 語り伝えられておる。

おしまい。
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あれ?。怒ってんですか。
和え物を肴に飲んでいるときに、やる話じゃなかろう って、
お客さんが、やれって仰ったじゃありませんか。

お詫びに、浅利のぬた和え でもお出ししましょうか。
もう和え物はいらん って。

ほんとに怒らしちゃった。

 
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【2】和えもの・ぬた

和える」の語源の明らかなところは存じませんが、こぼれ落ちる とか 滴る(したたる)と言う意味の「あゆ(零ゆ)」の変化からだろうというのが有力な説。
 でありますから、和えもの の 和え衣としては、酢味噌のように絡まる程度の濃度が必要ということになります。

 さてこの時節、和え物の代表は「ぬた」でありましょう。和え衣に酢味噌を使ったものを ぬた とよんでいます。

 「ぬた」 は ひな祭りにつきものの料理です。漢字では「沼田」です。とろりとした味噌のイメージが「沼田」なのでしょう。料理名としての「ぬた」は江戸時代からでありましょうが、酢味噌は古代からあったようです。(室町中期にぬた膾(ナマス)という語があわれたという説もあり。)

万葉集に次の歌があります。
醤酢(ひしおす)にに蒜(ひる)つきかてゝ鯛願ふ吾にな見せそ水葱(なぎ)のあつもの」(巻16 )
醤酢(ひしおす)が酢みそのことです

「酢味噌に蒜をまぜて、あえ物を作り終え、さて、鯛も欲しいと願つている私に、水葱の汁などは見せて呉れるな。そんなものは欲しくないぜ」

というのがだいたいの歌意でしょう。

 いずれにしても和え物は、食材の食感を和え衣の風味をもって愉しむ料理であるといえましょう。
ですから、食べる直前に和えることが大切なのです。和えてから時間が経つにつれ水っぽくなってまいります。「浸透圧差」によるものです。

(居酒屋おやじの知ったかぶり・第13号【◎呼び塩(よびしお)】の項参照)
http://www.tate-mono.com/2006/02/013.html)

この現象は素材と和え衣の調味料濃度が同じになるまで続きます。こうなると、味はぼやけ、食感も風味も損なわれてしまいます。
まさに論語の一節にある「和して同ぜず」でありますね。

    

 子曰、君子和而不同、小人同而不和(論語 子路第十三の二十三)

 
    (「君子は和して同ぜず、小人は同じて和さず」)

 
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【3】サヨリと蕨と独活の黄身酢和え

サヨリな

 最初に召し上がっていただいた、サヨリの黄身酢和えの作り方です。
それぞれに下味をつけた材料を器に盛り土佐酢を注ぎ、黄身酢をかけるだけです。

 では黄身酢の作り方から。
  黄身酢吉野酢に卵黄を加えて練ったものです。
吉野酢は、合わせ酢や甘酢、土佐酢などに葛粉でとろみをつけて作ります。葛粉は奈良県吉野地方の特産ですから、葛粉をつかった料理には「吉野」の名がつきます。

吉野酢」の他にも「吉野打ち」や「吉野仕立て」などがあります。

 吉野酢の割合は皆さんいろいろでしょう。今日は醤油をつかわず 以下の割合の甘酢を作り、→吉野酢黄身酢へと進んでまいります。

甘酢の割合酢10:味醂9:酒2.5:砂糖1.5:塩0.25
これを一煮させ、昆布を一辺入れたら火を止めます。甘酢が出来上がりました。

  甘酢が冷めたら昆布を取り出し 出汁を加えて温め 水溶きの葛粉を入れてとろみをつけます。これが吉野酢です。

吉野酢に卵黄を加え湯煎にかけながら練ります。
布巾などで漉してください。 はい黄身酢になりました。
 材料(サヨリと蕨と独活)には下味をつけておきます。

サヨリは三枚におろして薄塩をあて、10分。その後、3分間ほど酢に浸してから汁気を拭いておく。
・水煮のを茹でて、汁(出汁、酒、薄口醤油、塩)に浸しておく。
独活は適当な長さに切って、皮をぐるりと剥き、酢水に浸してから 軟らかに茹でます。それを先ほどの甘酢を出汁で薄めた中に浸けておきます。
・サヨリと独活をころあいの大きさに切り、器に盛り蕨を添えます。
土佐酢を注ぎかけてから黄身酢をかけます。

 
 土佐酢は鰹節の旨みを持たせたあわせ酢のことです。高知県の土佐が かつお節の産地ですからこの名があります。
きょうの土佐酢は、追いがつおをせず 先ほどの甘酢に出汁と薄口醤油を加えればよろしいでしょう。

 
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【4】サヨリ おねえさまに 似てる

サヨリ漢字
 サヨリが出回ってきますと春の訪れです。漢字は細魚針魚竹魚などと書き、単漢字では魚偏に箴と書きます。

どれもその細身の姿からの連想でありましょう。「(しん)」は竹の針のことです。
閂 魚河岸ではある程度の大きさ(120g位〜?)以上のものを「カンヌキ」と呼びます。カンヌキにに似ているからかでしょうか。

 カンヌキをご存じない方もいらっしゃるかもしれませんね。昔の家の木製雨戸には固定のためのカンヌキが取り付けられていました。
もともとは、門にさしかけてある横木のことでしょう。ですから「(かんぬき)」と書きます。

 
サヨリ の外形は細身の延長形で下顎が長いのが特徴。その先端は紅をさしたごとく赤くてきれいです。
白秋愛唱歌集
 北原白秋(1885ー1942)は

   サヨリは 薄い  サヨリは 細い
   銀の魚サヨリ   きらりと 光れ
とうたっています。
白秋は銀色をした細身のこの魚に気品のようなものを感じていたのかもしれません。

   銀の魚サヨリ   お姉さまに 似てる
と、白秋の詞は結ばれています。

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   白秋愛唱歌集 1933 【さより】 

   サヨリは うすい
   サヨリは ほそい
   ぎんのうお サヨリ
   きらりと ひかれ

   つきよの かわに
   だれだれ でてる
   さざなみ こなみ
   きらりと ひかれ

   サヨリの うちは
   まみずか しおか
   つめたい サヨリ
   みずのたま はけよ

   サヨリは うすい
   サヨリは ほそい
   ぎんのうお サヨリ
   おねえさまに にてる

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  赤いお口のサヨリ
サヨリの寿命はわずかに2年です。このあたりも薄命な美人になぞられる所以なのでしょうか。

サヨリは繊弱な外見通り、臆病な魚で、追われると逃げまどい、尾で水面を強く打ちジャンプします。2メートル近く跳ぶ事もあるそうです。サヨリは飛魚の仲間なのです。そして、まっすぐにしか泳げない、一途な面(?)を持っています。

 このように美人、佳人、麗人にたとえられ誉めそやされるサヨリですが
サヨリ腹黒針魚と鱚(さよりときす)」という諺があります。
これは、見かけはキレイでも腹黒い女のたとえに使います。サヨリやシロギスキスはすらりとしていて姿はきれいですが、腹を割いてみると真っ黒なのです。腹腔内の粘膜が黒いのです。
  おねえさまに にてる。。。   ん?。

 でもね、腹が黒いのは鮮度が良い証でもあるのですよ。
 
 それでは鮮度がよくて うまいサヨリの選び方。
サヨリ虫つき

  • 体が透き通るようにきれいな色で、
  • 鰓(エラ)が鮮やかに赤く、
  • そこになんと白い豆状の虫がついている。
  • この虫がついているサヨリは旨いのです。

虫つきが、うまいのです

あなたの大好きなあの

              
  • お姉さまは細身で上品で透き通るようなお肌。
  •           

  • お姉さまは赤くてきれいな唇。
  •           

  • お姉さまは腹のなかまっくろ、、、、、おっと、
  •           

  • お姉さまは虫がついて、、、、、おっとと、ヤベぇ。

 

 
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【5】酔中歌(あとがき)

♪ But Beautiful
1947年 詞: Johnny Burke &曲:James Van Heusen)

■タイトル『But Beautiful』を直訳すれば、「だって美しい、、」。それでサヨリおねえさまにぴったりかなと。本来の歌詞の内容は、大分違うニュアンスなのだけれどね。

Love is funny or it's sad
Or it's quiet or it's mad
It's a good thing or it's bad
But beautiful

■アルバム『Stan Getz & Bill Evans』のなかにあるスタンゲッツとビルエバンスの粋な演奏。
↓↓Stan Getz & Bill Evans – But Beautiful↓↓



■オリジナル曲は映画『Road to Rio 』(邦題:南米珍道中)の挿入歌。ビング・クロスビーが唄った所謂クロスビースタンダード。

 ◆「和える」は、ただ混ぜ合わせるのではなく、素材の持ち味と調和を大切にした作業です。「和」の字を使うことからも「和(なご)み」に通じる何か深いものを感じます。
 ◆漫画サザエさんの小学校時代の同級生に、サヨリさんがいるそうな。

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