■014号■ カラスミを作る

 いらっしゃいませ。お待ちしておりました。

 「粋でいなせな江戸っ子」なんていいますよね。さっぱりした気性で容姿もよくて。

 世辞を言うんじゃない、って。いえ、お客さんのことではなくて。

いなせ」という語の意味です。漢字では「鯔背」と書きます。

 そこで、今日のテーマは「カラスミ」です。いなせ と カラスミの関係ですか。秋の冷おろし なんぞお召し上がりながら暫らくお付き合いください。追々ネタがばれてきますから。

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「秋の冷おろし」が出揃ってまいりますと 私のカラスミ作りの季節が今年も到来です。

ボラ子、魚河岸で

 カラスミはボラ(鯔)の卵巣を塩漬け、塩抜き、乾燥させて作ります。ボラの卵巣は「ボラ子」と呼ばれ この時期になりますと築地魚河岸に並び始めます。

 やや大振りなもので、1kgが2腹ぐらいかな。(卵2本分が1腹。)約1kgで大きめのカラスミが4本できあがるわけです。 出来合いのカラスミの価格は 国産の良いものでしたら、この大きさですと1腹1万円以上でしょう。

 カラスミは世界中にありまして、イタリアのボッタルガ(bottarga)やフランスのブタルグ(boutargue)などがしられています。台湾産の烏魚子(ウーユイツー)も有名ですし、スペインから土産に買ってきたこともあります。近頃はオーストラリアやニュージランド産など割安なものも でまわっております。

 これら外国のものは、ボラの卵に限らず、マグロや他の魚の卵も使います。日本でもサワラや鯛、ボラによく似たメナダなどの卵でも古くから作られておりました。

 

 今日は私どもの カラスミの造り方 をご披露いたします。一度 うまく出来れば毎年病みつきになりますよ。

 ご友人に差し上げても大変喜ばれます。私なんざ、作ったものの半分は贈答用になってしまいます。略奪されるのも含めて。



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ボラ子、濃い色

◆きょうの品書き(目次)◆

【1】カラスミについてちょっと

【2】カラスミの造り方 ー 居酒屋おやじ流

【3】ボラについて少し

【4】酔中花(あとがき)

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【1】カラスミについてちょっと

 日本の三大珍味のひとつとされているカラスミですが、残り二つは何か。江戸時代から天下の三珍は越前のウニ、尾張のコノワタ、肥前野母のカラスミということになっております。

 このカラスミ、古代ローマ時代からあり、ギリシャ、エジプトでも作られていたそうです。 例のごとくシルクロードを通って9世紀には中国でも作られていたそうな。

 カラスミの語源ですが、「唐の墨」からという、長崎県野母崎樺島の伝承が有名かつ定説でしょう。

 安土桃山時代、天正16年(1588)豊臣秀吉は朝鮮出兵のため、肥前の名護屋(なごや)に赴く。長崎代官、鍋島飛騨守信正は名産、野母のカラスミを献上する。

 秀吉は珍味を賞賛し名をたずねると、唐の墨に形が似ているところからが「唐墨(カラスミ)」と答えたのがはじまりだとか。そのとき秀吉が命名したのだという説もあります。

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■写真追加(2014年10月29日築地魚河岸にて)
 

ボラ子の価格、4,100円/kg〜33,000円/kgいろいろ






からすみ からすみ






からすみ
からすみ

■写真追加/ここまで 


【2】カラスミの造り方 ー 居酒屋おやじ流

 

 ●居酒屋おやじ流などと大仰ですが、さして代わり映えのする作り方ではございません。試行錯誤の末、この作り方に至ったというだけです。

ボラ子、薄しいいろ

 ●ご用意いただくものは、粗塩と脱水シート(商品名ではピチットシートなど)そしてボラ子。艶がありしっかりしたものを選んでください。市場に行けない方は魚屋さんに頼んでみたら入手できるかもしれません。

 ●卵巣は左右2つの対で、1腹(ひとはら)です。左右はボラの身の一部がついたまま繋がって売られていますが、これは乾燥がおわるまで切り離さずそのままで。

 1)先ず、ボラ子の血抜きからはじめます。ここが一番 面倒かつ神経を使うところ。皮が破けぬよう丁寧にお願いします。

 ボラ子の中心に太い血管があります。ごく細い竹串や針などをさして穴を開け指の腹で血を押し出していく。細い血管の血も太いほうに指で誘導して出来るだけ出してください。流水にあてながらやるとよろしいでしょう。

 私は、細い血管にも針を打ち、水にさらして血抜きをします。針打ちは、なれていない方にはお勧めしません。皮を破くことになりかねません。

 2)次に塩漬け。ボラ子全体にたっぷり塩をまぶしつけて(ベタ塩)、底が平らなザルに並べます。ザルの下には水受け用にバットを敷いて、

ラップフィルムで覆って冷蔵庫へ。かなり水が出ますのでザルと水受けの間に適当なカイモノ(割り箸を井桁にして挟むとか)が有ったほうがいいでしょう。出てきた水はすててください。

 ・塩漬けの期間ですが、私は5日から1週間です。品質さえよければ1日でいいという板前さんもいます。臭みを抜くことも塩漬けの目的のひとつですから、3日以上をお勧めしておきます。

 3)仮に1週間の塩漬けとしまして、今度は同じく1週間の塩ぬきをします。冷蔵庫から出したボラ子に残っている塩を水で洗い流してください。

酒ひたひた

 水気をふき取りましたらフタつきの容器に並べ、キッチンペーパーなどで覆って日本酒を被るくらいまで注ぎいれます。フタをして再び冷蔵庫で1週間。途中でいちど上下を返したほうが酒のまわりがいいかもしれません。

 4)愈々干す作業に移ります。どのくらいの期間干すのかも、意見の分かれるところ。卵のプチプチ感が残るくらいがいいという方と、しっかり干したネットリ感こそカラスミの持ち味というご意見もございます。

 ネットリ派の私は長期間干します。味見と称して、途中で食べ始めることも度々あります。

 干し方ですが、通常は天日に7日から10日くらい干します。しかも2、3時間おきに上下を返しながら。ハエや猫よけの網をかけて。

 排気ガスやカラスのことも考えなければなりません。

それで天日干しはあきらめ脱水シートを使うことにしました。

 1週間の酒浸しが過ぎ、冷蔵庫から取り出しましたら、水気(酒気?)をよくふき取ってください。ふき取る前に焼酎で洗う人もいます、これはカビ防止だそうです。

 しっかりふき取りましたら、脱水シートに挟んで冷蔵庫で一昼夜。さらに脱水シートを取替えもう1日。かなり水分が取れました。

 次はバットなどに新たに脱水シートを敷き、その上に並べ涼しくて風通しのよいところで干します。遠くから扇風機で風を送ってもいいでしょう。

 毎日、数回上下を返してください。途中、脱水シートに水分がたまるようなことがありましたら取り替えてください。(ボラ子本体からはもう水分は出ませんでしょう。)

 ●10日から15日間続けます

 以前はガラス板やアクリル板に挟んで、輪ゴムをかけたり軽いオモシをのせたりして、平らにしたものですが、今は形を整える程度にしております。

 これらの作業は室内でやっていますが、出来るなら、1日でも天日にあてたほうがよろしいかと思います。

 ●10日から15日が経ちました。

 ●もうボラ子ではありません。カラスミの出来上がりです。

 ●薄皮をそっと少しだけはがして、薄くスライスして、味見、、、、

  もうたまりません。酒だあ。

 ●からすみを使った料理をいろいろお試しください。

唐墨大根

 そのままカラスミ大根で、白身魚や烏賊の刺身に挟んだり、酢の物にしたり。和え物でよし、軽く炙って猶よし。すりおろしてサラダやパスタにかけるもよし。火取って茶漬けにしたりと。

 

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【3】ボラについて少し

 

 ボラ(鯔)についても、 知ったかぶり を少し。

 ボラは世界中の温帯、熱帯地域に広く分布する暖海性の魚です。以前取り上げたスズキと同じく、成長につれ呼び名が変わっていく出世魚です。

 「難波の鯔は伊勢の名吉(みょうきち)」という諺があるくらいですから 呼び名は地方によっていろいろありますが、一般的にはこのように。

 ●体長2?3cmの稚魚を「ハク」と呼び、5〜6cmからの幼魚を「オボコ」あるいは「スバシリ」と続きます。 世慣れていないことや生娘(きむすめ)を「おぼこ」といいますね。うぶこ(産子)の音変化らしいのですが。

 ●10〜20cmで「イナッコ」、20〜30cmに育つと「イナ」となります。イナは川を遡って汽水域で秋まで過ごします。

 冒頭で話しましたが、粋でさっぱりした気性で容姿も優れた若者を「いなせな兄い」なんて昔はいいました。最近は聞かないけど。この「いなせ」は「鯔背」であるとは既に申しました。 江戸後期、魚河岸の若者たちが結った髷(マゲ)がボラの背に似ていることから鯔背銀杏(いなせいちょう)と言ったそうです。

 ●秋になると海に戻り、歳を越え2才魚となり翌春の終わりごろから体長も30cm以上となり「ボラ」と呼ばれるようになるのです。

 ●老成魚は「トド」と称され、80cm〜1m近くに達することも。 つまりとどのつまり。「とどのつまり」というたとえはここからきているんですね。

 

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【4】酔中花(あとがき)

 ♪ How Long Has This Been Going On ? (邦題:いつの頃からか)

    (w)Ira Gershwin (m)George Gershwin

1927年のミュージカル”Funny Face”の挿入歌として用意された、ガーシュイン兄弟の作品でしたが、なぜか採用されなかったようです。
翌1928年ミュージカル”Rosalie(ロザリー)”で陽の目を見ました。その後’57年の映画”Funny Face”(邦題「パリの恋人」)でオードリー・ヘプバーン(Audrey Hepburn) が唄っています。

↓↓こちらはPeggy Lee の歌唱で How Long Has This Been Going On↓↓

 
■最初にカラスミを作り始めたのはいつの頃だったか。もう15年以上まえでしょう。いろいろ試して、ここ4、5年ほどはお話しました方法でつくっております。完成まで1ヶ月間くらいかかりますが。

 ■言い忘れました。出来上がったカラスミを長く保存するなら1本ずつラップフィルムに包んで冷凍庫へ。正月のおせちに使うことも出来ます。

 ■日本の三珍は先ほど挙げました、世界のそれは、フォアグラ、キャビア、トリュフということになっていますね。

 世界の三大スープって何でしたっけ。トムヤンクン(タイ)、ブイヤベース(フランス)、ふかひれスープ(中国)が正解。ふかひれスープの変わりにロシアのボルシチの場合もあるそうです。味噌汁は入っておりません。

 ■秋雨ふる中、今朝も魚河岸へ行ったのですがボラ子を見ませんでしたね。見落としただけかもしれませんが。まだまだ入荷すると思います。値も、も少しは下がると思うのですが。

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