■011号■セピア色の思い出

秋ですね。酒がうまい時節になってまいりました。 酒はいつだってうまい、なんて半畳は無しですよ。

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玉の歯にしみとほる秋の夜の 酒は静かに飲むべかりけり  牧水
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  セピア色の牧水歌碑旅と自然とともに酒をこよなく好んだ漂白の歌人、若山牧水(わかやま ぼくすい・1885-1982)ですから、酒の歌の数には事欠かない。
 残された7000首以上のうち、酒に関することを詠ったもの約2000首といいますから、”酒仙の歌人”とも称される所以です。(牧水は生涯で8794首の短歌を詠んだ、という記述もあります。)
 沼津の千本浜公園に牧水の歌碑がありまして、ガキのころ海水浴の帰りに亡父に連れて行かれたことを思い出します。

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幾山河 こえさりゆかば 寂しさのはてなむ国ぞ けふも旅ゆく
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 歌碑にはこの歌が刻まれておりまして、オヤジは説明するのですが、あたしは、泳ぎのあとの空腹で、上の空でしたな。
 むかし昔のセピア色の思い出です。 あれ? もうお分かりですか。きょうのテーマ。そうです、イカ墨です。


◆きょうの品書き(目次)◆
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鯣烏賊

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【1】イカ墨・セピア

 映画の回想シーンやレトロを表現する、常套の手法でおなじみのセピア色の場面や写真。

 デジタル写真は変色することは無いのでしょうが、実際、昔の白黒写真は変色しました。印画紙に残っているチオ硫酸ナトリウムてやつが画像の銀粒子を硫化させ、硫化銀となって変色するのだそうです。
 
 セピア(sepia)とは烏賊の墨(イカのスミ)を原料とした顔料、インク、絵の具で、その色は暗褐色(あんかっしょく)。これはごぞんじでしたね。 「茶褐色に色あせた写真」でもよさそうなものですが、「セピア色」としたところが哀愁をそそるんでしょうか。

 イカ墨はもともと ほとんど黒色か黒褐色です。イカ墨スパゲッティでおなじみの色ですね。茶褐色ではありませんね。
 古くは、西洋で使われていたイカ墨インク、時とともに色は褪せていきます。これでしょうね「セピア色の写真」とは。色そのものより、褪色(たいしょく)した写真ということでしょうな。
 もとはラテン語で甲烏賊(コウイカ)そのものをセピアと言ったらしいのです。コウイカの代表的なものが墨烏賊(スミイカ)や紋甲烏賊(モンゴウイカ)ですね。

 コンティキ号探検記/ちくま文庫ノルウェイの人類学者で海洋探検家、トール・ヘイエダール(1914-2002)の「コンティキ号探検記」(1948年・刊)。1947年、バルサ材の筏(いかだ)で南米からポリネシアまで700キロ、101日間の太平洋横断を綴った本です。
 
 この方、航海中の日誌の一部はイカ墨で書いていたそうです。甲イカではなく、ある種の鯣烏賊(スルメイカ)の墨だったらしいのですが。 

 イカの種類について少しだけ触れておきましょうか。

 
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【2】イカの話を少し

 

 イカは魚ではありません。分類学上では軟体動物に入ります。蛸(タコ)や貝類とおなじです。 ですから、「イカの甲」や「骨」みたいな軟骨状のもの(軟甲)は骨ではなく「貝殻」とおなじなのです。
 軟体動物は7つのグループに分けられますが、イカ、タコなどは「頭足類」と呼ばれます。頭から直接、足(腕)が生えていますでしょう。

 イカには「コウイカ類」と「ツツイカ類」にわかれます。
 あおりいかコウイカ類は石灰質の「イカの甲」を持つものが主でスミイカなど。
 ツツイカ類にはヤリイカやスルメイカのように細長いイカです。
 アオリイカは広げると円い卵形をしているので、コウイカ類と思われがちですが実はヤリイカ科です。石灰質の甲ではなく軟甲をもっています。

 白いか/剣先烏賊 コウイカ類を英語でcuttlefish 、イタリア語ではseppia(セッピア)、
 ツツイカ類を英語で squid 、 イタリア語でcalamari(カラマーリ)といいます。
なぜ外国語を書くかと言いますと、日本語の総称としての烏賊(イカ)に当たる語がないのでは、と思うのです。
ヤリイカ 英語の辞書を引いても、イタめし屋のメニューを見ても分けてあります。特に、イタリア料理などではイカの種類の違いというより、別の魚介であると とらえているように思えるのです。極端に言えば、日本でのイカとタコの違いほどに。
 あたし居酒屋オヤジですが、こう見えても、イタリア料理、得意なんです。食うのが。 ウチの店も イタめし屋と呼ばれるようガンバッテいます。至れり尽くせりの「イタ」で。

 蛍烏賊イカの種類は世界中で450種くらいあるそうです。タコは200種くらいといわれていますから、すごい数です。でも、絶滅した種類はその40倍もあったそうですよ。アンモナイトからわかるんですって。日本近海のイカは約100種。通常、食用とされるのが約30種。

 イカ墨に戻りましょう。

 
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【3】イカ墨、タコ墨

 イカ墨料理は数ありますが、タコ墨料理はありますか。私は知りません。(先日、黒い蛸めしをさる店でいただきましたが、イカ墨を使っているとのことでした。)

 料理なさる方は、お気づきでありましょうが、イカ墨はねっとりしていて、タコ墨のほうが水に溶けやすいように思います。
 更に、イカ墨は墨袋のままの状態で取り出すのは、さほど難しいことではありませんが、タコの墨袋はすぐに破れてしまいます。
 このあたりに、タコ墨料理が無い理由のヒントがありそうです。2つを比べてみましょう。

      

  • ・イカとタコの墨の吐き方に違いがあります。イカは敵に襲われそうになったときに吐く墨は海中で広がらずにイカの分身であるかのように漂います。敵がこれに気をとらわれているうちに逃亡。
  • ・タコ墨は海中ですぐに溶けて、まさに煙幕を張って逃亡。実に、イカ墨の油分はタコ墨の3倍あるのだそうです。
  • ・墨袋は正しくは墨汁嚢(のう)といいまして、イカのそれは肝臓の外側にあるのですが、タコは肝臓の中にあるので取り出しにくいのです。そしてその量はイカのほうが多いのです。
  • ・うまみ成分であるアミノ酸、イカ墨はタコ墨の約30倍。
  • ・イカ墨には「酵素リゾチウム」という成分があり、これは鮮度を保つ働きをするということです。 

 まとめです。

  • イ、タコ墨は水っぽいがイカ墨はネットリ、食材に絡みやすい。
  • ロ、イカ墨は取り出しやすい。量もタコ墨より多い。
  • ハ、イカ墨、アミノ酸豊富で、うまい。
  • ニ、イカ墨、鮮度を保つ成分あり。 


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【4】イカ墨の料理、

 イカ墨煮はスペインにもポルトガルにもありましたし、イタリア料理にもあります。イカ墨のパエージャ(Paella)もパスタも熱を通してありますね。

 いか黒造り日本には、 イカの黒作り があります。富山や佐渡の名物です。これはイカ墨を混ぜた塩辛ですから、火は入っておりません。熱を通さずにイカ墨を使う料理をほかに知りません。ありましたら教えてください。

 享保年間(江戸中期 1717-1736)には既に黒作りがあったようで、加賀藩主、前田候は参勤交代の折に江戸の将軍へ献上したとのこと。吉宗(八代将軍)の好物であったそうな。

 加賀藩といえば石川県。七尾市に「法華宗楊柳山 本行寺」という寺があり、寺毎年5月26日「アニマー(霊魂)祭」という行事があります。
 隠れキリシタンの祭りで前田家の重臣や信者によって伝承されてきたようです。祭りでは茶会が開かれ南蛮正月膳というキリシタン料理の御膳がふるまわれます。この中にイカの墨煮が入っているのです。
 これは、16世紀にポルトガルやイスパニアの宣教師によってイカ墨の料理が伝えられたのでしょう。キリスト教布教の拠点となった世界の各地にはイカ墨の料理が残っているようです。

 沖縄に イカの墨汁 がありますね。一説によるとこれも琉球に布教にやってきた宣教師が伝えたのだといわれています。
 沖縄のイカの墨汁にはイカのほかに豚肉やニガ菜(ンジャナ)などが入ります。これは医食同源の考えのもと、体内の悪いものを出す「サギグスイ(下げ薬)」として食べられてきました。

 中国でも、漢方薬としてイカ墨があるらしい。日本の中華料理屋さんでイカ墨シューマイというのを見ましたが、アレは中国にあるのかな。

 築地場外市場のいか墨ソフトクリーム最近はいろいろありますね。イカ墨を練りこんだ黒いパスタや麺。イカ墨パン、蒲鉾、せんべい、ポテトチップス。私は築地の魚河岸へ行くときに場外市場を通ることが多いのですが、「イカ墨ソフトクーリム」を売っている店があります。まだ試していませんが。

 これだけイカ墨加工製品があるのは、健康的な効果に着目したということもあるのでしょう。 イカ墨がもつ がん予防効果が発表されたのは1990年のことでした。その後の研究ではどうなっているのかな。
 
 イカ墨の成分には「ムコ多糖(コンドロイチン硫酸)」というのがあってこれは、間接の動きを滑らかにする、皮膚の傷を直りやすくする、ウィルスの感染を防ぐ、血液をきれいにし、新陳代謝をよくする効果ありということです。 とは申しましても 毎日イカ墨ってワケにもいきませんがね。オヤジの鉄漿(おはぐろ)なんて見たかないでしょ。

 
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【5】酔中歌(編集後記)

♪DAYS OF WINE AND ROSES(邦題:酒とバラの日々)
1962(w:Johnny Mercer, m:Henry Mancini)
映画『酒とバラの日々』の主題曲。作詞者・ジョニーマーサーはじめ多くの歌手が歌っています。アンディ・ウィリアムス盤はミリオンセラーになりました。youtubeでジュリー・ロンドンの歌声がありました。
↓↓↓↓↓Julie London ♪DAYS OF WINE AND ROSES↓↓↓↓↓ 

♪The days of wine and roses
 Laugh and run away like a child at play
 酒とバラの日々は、
 笑いながら走り去る、戯れの子どものように、、

海哀し山またかなし酔ひ痴れし恋のひとみにあめつちもなし   牧水

↑牧水最初の酒の歌です。このころの牧水は年上の小枝子という女性と恋愛に陥っていました。酒とバラの日々でありました(たぶん)。

このごろの寂しきひとに強ひむとて葡萄の酒をもとめ来にけり  牧水

やがて小枝子とは破綻するのです。

■ 1888年オーストリアの植物学者ライニツァーによって発見された「液晶」。はい、あの液晶ディスプレイの液晶です。
 固体(結晶)と液体の中間の物質ですから液晶(liquid crystal)。ある方向には規則的な、別な方向には不規則な分子配列をもつ物質。
 この物質は液体のような流動性がありながら、方解石のような光学的異方性、つまりですな複屈折現象を兼ね備えておるんです。
 さっぱりわかりません、て。。。 あたしも。
 イカ墨は天然の、液晶物質であるということを 知ったかぶり したかっただけであります。 「IT居酒屋」を目指すものとしては、このようなことにも触れておきませんと。
「IT居酒屋」 I(いたれり) T(つくせり) の居酒屋。くどいですか。すみません。

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