■007号■鱧(ハモ)も一期、海老も一期

 きょうは、いい鱧(ハモ)が入っています。
「ハモの落とし」、如何でしょうか。

 『いいねえ。暑い夏はあっさりといきたいね。あっさりのなかに、
奥行きがあって、味に深みがある。酸いも甘いも噛み分けてきた私に
ぴったりだね。ハモの落しがよく似合うおとこ、てか。』

 お客さん、もうお酔いになったんですか。
 失礼しました。今日の品書きです。


◆きょうの品書き(目次)◆

 

【1】鱧も一期、海老も一期

 ハモ(鱧)は昔から関西では夏の味覚として、なくてはならぬ魚
ですが、近頃はここ関東の私のとろこでも、お出ししています。
 ハモの旬は2回あるとされております。夏と秋。

■ハモは「梅雨の水を飲んで育つ」
といわれ、梅雨が明けるころ。7月。
「麦藁蛸に祭り鱧(むぎわらだこにまつりはも)」とも。
この、祭りは祇園会(ぎおんえ=鱧祭り)のこと。7月。

■「名残のハモ」、「金ハモ」などと呼ばれるのは秋。
砂の中での冬眠に備えて、栄養を蓄えている秋がのほうが旨い、
夏の終わりから秋が本当の旬だとおっしゃる方、すくなからずいらっしゃいます。

■ハモの強い生命力を表現して、「京都の鱧は山で獲れる」という言回し
があります。

活き締めのハモ 盆地の京へ、昔は若狭や瀬戸内から魚を運ばれました。鯖街道なんて名が
残っていますね。
 瀬戸内から山中を伝って京へ運ぶ途中、生命力の強いハモであるから、
逃げ出すこともありました。それを見た人が京のハモは山に住んでいると
勘違いしたというお話。

 
■ハモの料理法はたくさんあります。「現代日本料理法総覧」 
(1967年刊、清水圭一・編)という料理書には91種もの調理法が
載っています。
 ハモ料理には、活けの物を使いたいですね。骨切りをしてつかいます。
3号にも書きましたが、1寸(約30mm)に20から24くらいの切り目が
理想といわれています。
 これを霜ふりしますと、花が咲くようにぱっと身が開きます。
牡丹鱧(ぼたんはも)と呼ばれるゆえんです。

 代表的なハモ料理をあげておきます。

  • ●ハモの落とし(湯引き、ハモちり)
  • ●椀種    (牡丹ハモ、など)
  • ●焼き物   (照り焼き、など)
  •  

  • ●煮物    (葛煮、炊き合わせ、など)
  • ●鍋物    (ハモすき、など)
  • ●食事    (ハモ寿司、ハモ雑炊、など) 

 

鱧のフエ(浮き袋)
鱧のフエ(浮き袋

高級蒲鉾の材料としても有名ですね。身だけを使いますから、
皮が余ります。その皮をタレ焼きした物が売られています。それを胡瓜と
和えた酢の物が●ハモきゅう です。
 
 鱧の卵は塩辛、白子は吸い物などに。浮袋(笛・フエと呼んでいます。)を湯がいて
椀種や酒肴にもします。骨からはいいスープがとれますから、この魚も棄てるところがありません。

  『ますます、俺にぴったりの魚だな。まずは高級魚である。煮ても焼いても、
いけるし、棄てるところもない。それに引きかえ、オヤジ、あんたは
パッとしない人生やってるね


 お言葉ですが、「 鱧も一期、海老も一期 」(*)というじゃありませんか。
 (*)「ハモもいちご、エビもいちご」・・・ハモも、その餌であるエビ
も同じ一生。身分、貧富、境遇に違いはあれど、人の一生は同じようなもの、
という例え。

 

【2】「あっさり」と「さっぱり」

 先ほど、
暑い夏はあっさりと、
とおっしゃいましたが、
あっさり」と「さっぱり」は どう違うんでしょうか。
あっさりは、オレの性格。さっぱりはこの店。今日も客が疎らだなぁ。
商売さっぱりやろ

 ほっといてください。

活き締めの鱧は下顎も落とされて入荷します。
鱧に指を咬まれ、病院で縫ってもらう人もいるほど獰猛。
・「ハモの落とし」はあっさりしている。
・「ハモの落とし」はさっぱりしている。
 あまり違いが感じられませんが、
・この吸い物は 薄味であっさりしている。
・この吸い物は 薄味でさっぱりしている。
この例ですと、
薄味であるからあっさりしている。(原因・理由)
薄味でしかもさっぱりしている。 (並列)
こんな風に感じませんか。「あっさり」の方は味の濃淡についての言葉で、
「さっぱり」は必ずしも、そうではないと。
「あっさり」は「浅」に接尾語の「り」がつき、間に促音便(そくおんびん)
の「っ」が入った、という事です。「ほっそりした手足」等というときの
「細」が「ほっそり」への変化とおなじですね。
 辞書を見ますと「あっさり」の意味の中に「あとを残さないさま」
というのがあります。「さっぱり」にはその意味がないようです。
 ですから、後味をいうときは「さっぱり」のほうがいいのかもしれません。
 ◎「この吸い物は 後味がさっぱりしている。」
 △「この吸い物は 後味があっさりしている。」

 サッパ(拶双魚)という魚があります。岡山では「ままかり」で有名なあれ。
サッパの語意は笹魚(ささば)で、笹の葉のような小さい魚を表わすのだそうな。
『大言海』によりますと「さっぱり」はこの魚のサッパ(拶双魚)と関わりがあるらしい。
コノシロに比して味の爽(さっぱり)したる意にあるか

 
そして江戸時代、大根の新漬けを「あっさり」と呼んだですって。でありますから、
「さっぱり」は魚に、
「あっさり」は野菜に、
縁(ゆかり)があるということになります。

 
 『おやじ、ウンチクはあっさり切り上げて、鱧の落としを急いでくれ』 
 おまちちどうさま。梅肉醤油と芥子酢味噌の両方をご用意しました。
お好きなほうで、お召しあがりください。

 

【3】きょうの賄い「ハモの焼霜つくり・トマト梅肉ソース」

 ハモの湯引き(落とし)には、梅肉が添えられて出されるのが常套ですが、
淡白な身に比して梅肉の味が、勝ちすぎる、とお思いになる方も、
いらっしゃいますでしょう。
 そこで、今日はハモを焼霜にして、梅肉の入ったトマトのソースで
いただきましょうか。
 
 先に、そのソースから。熟したトマトを湯剥き(ゆむき)して種を除き
裏ごしします。煮切り酒でのばして、梅肉を
少量(お好きなら、それなりの量を)足して、まぜあわせます。
 上身のハモは骨切りして(ご家庭では魚屋に頼むという手も。)、金串を
打って皮目を焼きます。身のほうはさっと炙ります。炭火がいいのですが、
ガス火でも、バーナーでもいいことにします。これを冷水に取り、
水気をふき取り3cmくらいに切ります。
 あしらいに使う野菜(しいたけ、アスパラ、オクラなど何でも。)も
焼いておいてください。

焼ハモ、トマトソース 盛り付けです。
さっきのソースを皿に敷きます。その上にハモの焼霜つくりを3、4切れ。
焼いた野菜を添えて、形よく盛ってください。
 天に茗荷の繊切りとか、洋風にするならセルフィーユなどを飾っても
いいでしょう。

 

【4】上司小剣『鱧の皮』

上司小剣・鱧の皮 上司小剣 (かみつかさしょうけん)に『鱧の皮』という小説があります。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000248/files/1334_20718.html

道頓堀で鰻屋を営む女将お文は御寮人はん、36歳の女盛り。
亭主福造は道楽者の婿養子、出奔して東京にいます。
福造から金の無心と身勝手な手紙が届きます。
手紙の末尾には『鱧の皮を御送り下されたく候』とあります。

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  『鱧の皮の二杯酢が何より好物だすよつてな。……東京にあれおまへんてな。』
 夫の好物を思ひ出して、お文の心はさま/″\に乱れてゐるやうであつた。 

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『鱧の皮』は大正3年に『ホトトギス』で発表されましたが、時代設定は7年ほど遡った明治38年ごろ。当時の大阪の情景が浮かびます。

しっかり者の女とぐうたら亭主が登場する大阪の物語では、織田作之助の『夫婦善哉』(昭和15年)が有名です。この小説でも亭主は食い意地の張った男です。大阪夫婦人情話の原型は上司小剣『鱧の皮』にあるのではないでしょうか。

織田作之助の『夫婦善哉』は1955年に映画になりました。(監督: 豊田四郎 主演: 森繁久彌、淡島千景)8年後の1963年に続編『新・夫婦善哉』は制作されましたが、上司小剣『鱧の皮』が下敷きになったであろう場面が挿入されています。

新・夫婦善哉大阪へ来ていた、モダンガールお文(淡路恵子)にまんまと引っかかった柳吉(森繁久彌)は、お文について東京へ家出してしまいます。蝶子(淡島千景)は柳吉を迎えにいくのですが、その折に持参した土産は鱧皮でした。柳吉の科白↓。
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 「鱧の皮や、これ東京にないねん。  細こう切ってね、二杯酢に一晩漬けといて、  ぬくぬくの御飯にかけて食べると、堪えられんねん」
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【5】酔中歌(編集後記)>

◆◆♪Cry Me A River Arthur Hamilton(1953)

■1955年にジュリー・ロンドンが歌ってヒットした、バラード。
男性ヴォーカルではハリー・コニックJr.が小粋。
インストでは、やはりデクスターゴードンかな。

ぐうたら男に向かって、

♪今さら愛していると言うのなら
じゃあ、それを証明してちょうだい 
さあ、河のようにお泣きなさいよ あたしのために
あたしだって 河のように泣いたんだ あんたを想って 

てな歌詞でしょ(訳人知らず)
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Now you say you love me
Well, just to prove that you do
Come on and cry me a river
Cry me a river
I cried a river over you
I cried a river over you
I cried a river…over you…
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「長谷川」珍味屋さん■今東京では、鱧皮は珍味屋さんで扱っています。一年中あります。
写真は築地場外市場の「長谷川」珍味屋さん。

■鱧のすり身で作った蒲鉾は上等品とされています。たしかにうまい。
ハモ皮ちくわ身は使わずに鱧皮だけの焼竹輪が徳島県阿南市にあるそうです。
竹に鱧皮を巻きつけ、回転させながらタレを塗り焼き上げるというもの。
こちらは東京で見た事はありません。
←【ハモ皮ちくわの写真は雑誌「danchu]9月号より】

■織田作之助の『夫婦善哉』には当時実在の飲食店が多数登場します。そのひとつ『自由軒』は今も盛業です。
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 「自由軒(ここ)のラ、ラ、ライスカレーはご飯に あんじょう ま、ま、まむしてあるよって、うまい
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新橋の自由軒 今、自由軒は東京新橋にも支店があって先日行ってみました。カレールーとご飯が最初からあんじょうまむしてありました。織田作の色紙も飾ってありました。
写真は新橋の自由軒

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