■006号■うなぎ屋になりそこなった話

 お暑い中、有難うございます。
きょうの突き出しは、〔うざく〕です。
はい、うなぎ蒲焼の酢の物でございます。
 『夏の土用の時期になると、毎年うなぎが出てくるなんざぁ、おまえのとこも芸がないね』
面目ありません。(いろいろ工夫凝らしてんだけどね。)  いえ独り言です。

毎年この時節にうなぎをお出しするのは、実は、ちょいと訳アリでしてね。
だいぶ前の話ですが、この店を鰻屋に鞍替えしてしまおうか、と考えたことがあったのです。

 話が長くなるといけませんから、さきに今日のお品書きお渡ししておきます。 


◆今日の品書き(目次)◆
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活うなぎ

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【1】うなぎの思ひ出

 若いころ、二足の草鞋(わらじ)でして、別の仕事もやっていましたこと、以前にちょっと話しましたでしょう。バブルてヤツが弾けたころのことです。

 この店は、どうてぇこたぁ ありませんでした。バブルの恩恵はなかったけれど、おかげさまで、落ち込むこともなかったんです。
 
 『どうせ大した売上じゃなかろう』 
 図星です。ご予算の少ないお客様ばっかしで。冗談です。ご来店いただくだけでありがたいとおもっております。
 ところが、もうひとつの商売の方がいけない。まともにあおりを食っちまって、仕事が激減。

 そこであたしは、あさはかにも考えたのですね。この店にもうひと働きしてもらおうと。昼も営業しようと。売上が伸びても家賃はおなじですし。

 当時から、近所の蕎麦屋で昼酒一杯やるのが、愉しみでしてね。
蕎麦屋といっても、つまみは数あるし刺身なんかもある。あのご商売がうらやましく、思えてなりませんでした。昼・夜同じ値段、同じメニュウ。

つまり、原価率も昼,夜いっしょ。私のように、肴つつきながら昼酒のお客も毎日少なからずいらっしゃる。

 レストランや和食屋など覗いてみると、昼定食はかなり、値段を下げてやっている。繁盛している店でも利益は薄いのでは、と感じました。
 それで 昼と夜、同じ価格の店を考えました。蕎麦屋はご近所ですから、除外。
うどん屋、ラーメン屋、スパゲッチ屋、、、今の商売と関連性が低い。

 てんぷら か うなぎ。。。以前町内にあった鰻屋はやめてから久しい。
ウナギなら厨房も店も今のままで、ほとんど手を加える必要がない。うまくいったら鰻専門店に転業だ。 

よし。 いける。。。。筈だ。

 夜の品書きにうなぎ料理を追加してと。昼定食は、うなぎ松竹梅の三種。
それに、刺身定食と焼魚定食を加えて、その年の、夏の土用の丑の日に、ぶつけました。

【昼定食 はじめました】【あみ亭のうなぎ定食】

 さて、当日 蓋をあけて見ますと、当然ながら、やっぱり。案の定。思ったとおり。。。。
も一本お付けしましょうか。

 『いいから続けて』    
 ハイ。当日 蓋をあけて見ますと、沢山のお客様がきてくださいました。前もって予告してございましたし、割引券もお渡ししてありましたので。

 
でも、その日だけ。
あとはサッパリ。
お見えになっても、ご注文は、刺身定食と焼魚定食ばかり。

 調理場であたしは、口ずさんで いましたね。ヤケクソで。
〔♪きょうもひとり〜。明日もひとり〜〕
うなぎ串うち
冷凍モノは使わないのが信条。毎朝、活けのウナギが入荷します。
捌(さば)いて串打って素焼き、蒸して、それから、、、、冷凍庫へ。
ほとんどが冷凍庫へ。  トホホ。

 昼のお客様が夜も来てくだされば、との皮算用もむなしく、夜おみえのお客に昼のご来店をお願いする始末。
 ひと月後、結局はウナギをやめて、昼定食七品目。今度はウナギを愉しみに通い始めて下さった方々に陳謝。

 
 紆余曲折ありまして、何とか、皆様にご来店いただけるようにはなりました。 

【お値打ち。低価格。あみ亭の昼定食】 
 何のための昼間の営業だったのか。 軽はずみはいけませんね。

 そんな経緯(いきさつ)がありましてね、毎年、この時期、ウナギの料理をお出ししているんです。自戒を込めて。
 『うん。なるほど。おやじの話を聞くと、このうざくにもほろ苦い味が、沁みこんでるのう』

 お客さん、洟水が垂れるてんですよ,,,。おとりかえしますよ。

  
 

【2】江戸前大かば焼き

 
 平賀源内は、江戸の僧の不信心をこのように書きつらねます。
 
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落ちそふで落ちぬものは、二〇(はたち)坊主と牛のきんたま。
落ちそもなくて落るものは、五十坊主に鹿の角、、、、、、

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 このあと、精進料理を並べて、次に食べてはいけない筈の玉子やらカツオの雉焼(きじやき)と続き、
 「厭離(えんり)江戸前大かば焼」 
がでてまいります。
 
ファミリー
 そして「、、、只一心に女郎狂ひ」と坊主たちのあきれた欲が書かれていきます。 
 
 上は、平賀源内の『風流志道軒伝(ふうりゅうしどうけんでん)』
1763年(宝暦13)の一部です。

 『やっぱり出たか、平賀源内。鰻屋に頼まれて〔土用の丑の日〕にウナギを食べる宣伝コピーを書いた、ていうアレだろ。
スーパーのウナギ蒲焼安売り広告にも載ってるハナシだぜー』

ですが、その話の真偽は分らないそうですよ。
 狂歌で有名な太田南畝(おおたなんぽ1749ー1823)が、ウナギ屋に頼まれて、宣伝文を書いたという話もあります。
 確かに源内の本には、「江戸前大かば焼き」が出てまいりますが、すでに在ったのか、始めて源内が創ったのかはわかりません。

  
◆記録に残っている由来話もあります。文政年間(1818ー1829)に刊行の
江戸買物案内(中川芳山堂、1824年・文政7年)】。

神田和泉橋にある元武士の鰻屋、青木屋善兵衛のもとへ、殿様の藤堂様からかば焼の注文があった。

大量だから、三日間に分けて納品。子(ね)の日、丑(うし)の日、寅(とら)の日と。丑の日のものが一番良かったので、以後丑の日ごとにお届けするようになった。 江戸中の評判となり、庶民も倣うようになったという、おはなし。

  
◆落語家第1号といわれる烏亭焉馬(うていえんば1743年-1822年)。
生涯に8つの引き札(タネ本)をつくりました。そのうちのひとつに、その名も 
江戸前大蒲焼】というのがあります。
 例によって、
居酒屋おやじ(ウナギ屋なりそこない)流のめちゃくちゃ現代語訳。
 
——————–江戸前大蒲焼・大意—————–
ー略ー
 頭が小さくて、のらくらしているが、山椒といっしょに食すれば、お茶漬け
や酒のつまみにぴったし。いい匂いで通りがかりの人も喉をならしちまう。
ー略ー  大坂屋の大将は、数年ウナギ屋を商って、違いのわかる男になった。
江戸前のウナギを見分ける術は、花魁(おいらん)が客を見立てるときのように、見事なもんだ。・・・・云々
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 しまった。あたしもウナギ屋になっていれば、ちがいのわかる男
になっていたのだ。

 

◆万葉集にも、うなぎがでてきます。
 大友家持(おおともやかもち 718ー785)の歌です。
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  石麻呂にわれ物申す 夏やせに よしといふものぞ むなぎとりめせ
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”むなぎ”はウナギのことです。
 千年以上前からウナギの滋養を知っていたというわけですね。

 

 ウナギが庶民に普及したのは江戸時代のことでしょう。
天明(1781ー1789)の末ごろからかば焼きに飯を添えていたようで、
文化(1804ー1818)ごろには”うなぎめし”が登場、
安政(1854ー1860)になって”うなどん”ができ、江戸市中のかば焼き屋も、
この頃には200軒以上を数えるほどであったといいます。

 
 

【3】今日の賄い うなぎの串かつ風 葱ソース 

 うなぎのかば焼にパン粉をつけてフライパンで焼きます。
材料:串4本分。

  • ・ウナギかば焼き1枚・ベーコン(できればかたまり)80g
  •     

  • ・種無しオリーブの実8個・ネギ(みじん切りしておく。1本分)
  • ・食パン1枚・バター・塩コショウ・レモン汁強力粉・とき卵・パン粉

調理

  • 1,ウナギかば焼は縦に半分、それを4等分。8個になる。ベーコン、食パンも8個に切る。
  • 2,竹串に食パン、オリーブ、うなぎ、ベーコン、
        食パン、オリーブ、うなぎ、ベーコン、と刺す。順序は構いません。
     4本作る。 塩コショウを両面に。
  • 3,衣をつける。強力粉、溶き卵、パン粉の順。
  • 4,フライパンにバターを溶かし、4本並べて両面を焼く。
  • 5,4を取出し、更に みじん切りしたネギをバターで炒め、
    塩、コショウ、レモン汁で味付けて、4 にかける。
  • 6,熱いうちにどうぞ。

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【4】酔中歌(編集後記)

♪ Sketches Of Spain (Miles Davis)
スケッチ・オブ・スペイン。
1960年に発表されたマイルス・デイヴィスのアルバム。編曲、指揮 はギル・エヴァンス。
収録曲の一つ目はあのConcierto De Aranjuez(アランフェス協奏曲 J. Rodrigo) です。
2曲めはこれ。Will O' the Wisp 。
(ウィルオウィスプは鬼火, 狐火http://tinyurl.com/2g3aoz

■もう15年以上も前ですが、スペインをレンタカーで10日間ほど走り回ったことがあります。バスク地方の名物料理に、うなぎの稚魚の料理がありましてね。結構いけるんです。
 アンギュラス(angulas)という、うなぎの稚魚のオリーヴオイルで炒め煮を、薄い土鍋で出してくれました。
 日本ではうなぎの稚魚は高いものですが、スペインでも今は高騰で、安い店で食うと、ニセモノというか、うなぎの稚魚もどき があると聞きました。

■うなぎの血には〔イクシオトキシン〕という毒素があり、目に入れば
結膜炎。食べると中毒症状を起こすことがあります。
火を通せば毒性はなくなります。

■うなぎの刺身を出している店もあります。大分県日田市では名物に
なっているそうです。血をよく洗い流し、きれいな身にしてからの
刺身は問題ないでしょう。〔洗い〕にしたり、酢でいただくのも、
いいかも知れません。

■昼定食ウナギ事件の後、2足の草鞋をやめまして、店の仕事に専念しています。
今はまた昼の営業をやめて夜だけです。

  
■そろそろ私の酒の時間となりますので、この辺りで失礼いたします。
 おちかいうちにまたお立ち寄りください。
 ありがとうございました。

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