■004号■夏の刺身は洗いとたたき(続編)

いい鯵だね
いらっしゃいませ
『旨そうな鯵だな。たたきでもらおうか』 
鯵は味がいいからアジというんです。
『おやじ、くだらないダジャレを始めて、すこし酔っているのじゃないのか』  
 そうお思いでしょうが、あたし じゃないんです。
かの、新井白石が言ってるんですから。 


——–  きょうの品書き(目次)——

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 江戸時代の儒学者・新井白石(1657ー1725)は語源辞書『東雅』のなかで
「鯵は味也。其の味の美をいふなり」
と書いているんですって。

 どうだ、恐れいったか。
いばるこたぁないやね。知ったかぶりだけなんだから。

  
 

【1】刺身 その4 〔鯵(アジ)のたたき〕

アジのたたき。もともとは、漁師料理だったんでしょう。

 作家の里美弴(さとみ とん・1888-1983)は
アジのたたきは漁村で潮風をかぎながら食べるのものが最高』と、
書いています。

 もとは、素朴なものであったが、手をかけ、工夫をほどこし、より成熟
されたものに。そしてやがての、行きつく先は本来の単純なつくり方に戻っていく。

 洗練て 素朴になることだと、料理にかぎらず、思います。
 のっけから ゴタクを並べるわけじゃあ ございませんが、アジたたき
なんぞも、基本のつくり方が一番かもしれません。
材料がとびきり ということであれば猶更です。

 平たく言えば、材料がよければ、手間ヒマかけなくても うまい。
てことでして。  
最初からそう言えって…。すみません。

 アジに限ったことではありませんが、釣りたての魚を 船上でさばいて、
刺身にするのは、結構大変なことです。ぷりぷりすぎて、包丁がスッと
入っていきません。 となれば、包丁で叩いてしまうのは、
調理の面からも理にかなっているのかも知れません。

 

 
つくり方です。

  
アジを3枚におろして、皮を引いて 細かく切る。
薬味のネギ、生姜、青しその葉などを混ぜ、これもいっしょに叩く。

 時には酢を落としたり、味噌を入れたり。
通常はネットリとなるまでは叩かない。

【2】房総郷土料理 〔なめろう〕

 ところが房総(千葉県)には〔なめろう〕という、たたきがあります。
これは、ねばりが出るまでたたく。必ず味噌を入れます。
 荒れ海の船上では、醤油はこぼれてしまうので味噌を使ったのだと
いわれています。
 
 
 これに酢を加えれば、〔酢なめろう〕となります。金目鯛やイカなど
他の地魚でもつくりますが、やはりアジ、イワシが代表でしょう。

 〔なめろう〕を、鮑(アワビ)の貝殻に詰めて焼く料理を地元では
さんが焼き〕とよんでいます。

 アワビの殻じゃなければいけねえのかっ、て 絡まないでくださいよ。
船の上ですから、有り合わせの食器が貝殻だったてことでしょう。

 〔なめろう〕の由来ですが、あまりに旨いから、皿までなめてしまう。
それで、なめろうという名になったと。ホントかね。

 〔なめらか〕という語を連想するんですがね。私は。
なめらか は古くは〔和め(なめ)〕〔嘗め(なめ)〕などと書き、
〔やわらかくなごやか〕という意味なんですってね。

 〔さんが焼き〕の名ですが、私は「山河焼き」だと思っていました。
焼きあがったものの 姿かたちを 山、川にみたてて、名づけたのだと。 
 ところが、違うらしい。千葉出身のお客にたづねたんです。

もともとは〔三辛(さんがら)焼き〕。味噌、ショウガ、ネギと3つ辛いものを 入れるから、〔さんがら〕。それが〔さんが〕に転じた。

三香(さんが)焼き〕だというお客様もいらっしゃいます。葱、味噌、魚介の3つの香りが愉しめるからだと。

別の方は、千葉に寒川(さむかわ)というところあり。その地名が訛ったのだと、おっしゃる。

 こんなちっぽけな、居酒屋の中でも、いろんな説が登場しますが、私の
「山河焼き」というのは間違いですよ。思い付きを言っただけですから。

【3】海辺の郷土料理 〔まご茶〕

 〔まご茶〕という郷土料理があります。伊豆でも房総でも「地元料理・まご茶」
という幟看板を見ましたから、海辺の郷土料理なのでしょう。
海はつながっていますから。

 伊豆でアジのたたきを、房総ではなめろうを ご飯にのせた茶漬けを
いただきました。たたきやなめろう でなくてもかまいません。
カツオやアジなどの切り身の茶漬けも〔まご茶〕というようです。

 この名の由来も諸説ききました。
 沖の漁師が 家で待っている孫にも食べさせたいと思うほど旨い、
昔話風孫思い漁師説。
 マゴマゴしてると、味が落ちる、という鮮度劣化懸念説。
 マゴマゴしてると、誰かに食べられちゃうよ、という弱肉強食説。
 最後の説は、私の創作ですから、他所で吹聴(ふいちょう)しないでね。

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【4】きょうの賄い 

          
1.〔たたきオクラとアジ〕

●和え物です。アジをたたかず、オクラを叩きましょう。
 アジ、3枚におろし、小骨を抜き、皮を引く。両面に塩を振って、
15分以上。 水洗いして、氷を入れた酢と半量の水の中へ10分。
 水気を拭き、細く切る。

 オクラは塩もみして、たて半分に切り、種を取る。湯を沸かして、
塩を入れ色よく茹でる。冷水にとり、拭いて小口から切る。さらに
粘りが出るまで包丁でたたく。とろろ状になったら、あわせ酢で合える。
(アジはまだ、オクラだけ合える。)

 

 合わせ酢:出し1、醤油1/2、酢橘(スダチ)の絞り汁を
お好きなだけ。レモンでも可。

 さっきの、細く切ったアジとおろしショウガを加えて、和える。
器に盛ったら、上に青しそ葉のせん切りとか茗荷の小口きりとか。

 
 
2.〔アジたたき、とろろ和え〕 

●今度は、同じく和え物でも、アジをたたく。
 アジ、三枚に下ろし、小骨を抜き、皮を引く。ここまで同じ。
細く切ったら、細かくなるまで、包丁でたたく。

 大和芋は、皮をむいて酢水に入れる。(アクを抜くため。)
おろし金でおろして、さらにすり鉢で滑らかになるまで、がんばる。

 そこへ、出しでのばした田舎味噌を入れて大和芋をとろとろにする。
出しでのばした味噌は少しづつ入れてください。擂りながら。
 濃い目の冷めた味噌汁でもけっこうです。

 これに、さっきのたたいたアジを和えて、器へ。
やはり、青しその葉のせん切りか小口切りの青ネギをのせましょうか。

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【5】酔中歌(編集後記)

♪Tenderly  1946(w:Jack Lawrence /m: Walter Lloyd Gross)

■邦題『優しく』

1952年ローズマリー・クルーニーの歌でミリオンセラー、以来彼女のTVショーのテーマ曲として使われました。サラ・ヴォーンの得意曲でもあり、幾度か吹き込みを重ねています。
BILL EVANS-DON ELLIOTT / TENDERLY

インストではビル・エヴァンスのアルバム『BILL EVANS-DON ELLIOTT / TENDERLY』の1曲目。ワルツのテンポから、エリオットのヴァイヴ。やがてエヴァンスのソロ。いいですねぇ。

 

■里美弴の『味』と題する随筆のなかに次の一説があります。
「あたまのなかにも、舌によく似た器官があり、それの機能が鋭敏であるということは、芸術家としての才能の、可なり重要なる一つだと思う 」(『文学界』昭和24年)
『舌上美』という作品もあり、里見は 食材が持っている元からの味を大切にした、
日本料理を好んだようです。

■ きょうの賄いは〔和えもの〕でした。
和え物は下準備をしておき、できるだけ召し上がる直前に和えてください。
 和えてから長く経ちますと 水っぽくなってしまいます。
材料の、具の食感と和え衣(あえごろも)の風味をたのしむ料理ですから。
やさしく(Tenderly)和えてください

■ 和えるの語源は「あゆ」+「あふ」だそうです
・「あゆ」=滴る(したたる)
・「あふ」=重ね合わせる
ですから、単に混ぜるとは、ちがいますね。
西洋料理とは異なる「和」の心を感じませんか。 

■ 今夜も屁理屈ばっかりでしつれいいたしました。
理屈は、和えるのではなく、捏ねる(こねる)ものでして、、。

 まだやってるね、このおやじ。
 ありがとうございました。またオチカイうちに。

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